こんな山奥の農村にも一軒だけ喫茶店がありまして、そこは私たちと同じく都会からIターンで来た人が経営しています。
最初、その人から「喫茶店を始めようと思うんだけど」と聞かされたときには、正直、「こんな観光客も来ないような山奥の、お年寄りばっかりの農村で大丈夫かなぁ…」と、他人ごとながら心配になったものです。
でもいざオープンしてみると、意外にもお客さん、けっこういらっしゃるではありませんか!
どうやらアルプスを一望できる展望公園のなか、というお店の立地が幸いしたようです。
私が知らなかっただけで、この村のアルプスの眺めはあちこちで評判のようで、よく観察してみると他府県ナンバーの車や、グループらしき人たちもチラホラ。
おかげで週末ともなると人手が足りないほどで、よく私も臨時の手伝いに呼ばれたりしました。
お店のメニューは安全に気を配ったオーガニック系のものが多くて、ピザやパンなどもちゃんと天然酵母で生地から作る本格的なものでした。
実は、私がパンづくりに興味を持つようになったのは、このお店のお手伝いをしたのがきっかけです。
それまではどちらかといえば食べる方。
それも独身時代はとくにパン好きというほどでもなかったのですが、結婚して、食品はできるだけ自然食品の店で買うようになって、そこで天然酵母パンに出会ってから、私のパンに対する認識はガラッと変わったのです。
天然酵母パンはよく「硬い、すっぱい」などといわれますが、そのパンはちっともそういうことがなく、硬いというよりふわふわでない、十分な食べ応えがあるという感じで、噛むほどにうまみの出てくるほんとうに美味しいパンでした。
その後信州へ移住してからは、さらに多くの個性的なパン屋さんを知ることになります。
なんでも信州の気候はパン作りに適しているらしく、おいしいパンを作るためにわざわざ信州へ移転されるお店もあるくらいなのです。
特に八ヶ岳あたりは激戦区といわれ、天然酵母の本格パン屋さんが数多く競いあっています。
食べる側としては有難いことで、車でちょっと走れば評判のパン屋さんを何軒か回れますので、いろいろ食べ比べることができて便利です。
このパン屋さん巡りでますますパンの世界の奥深さを知り、パン好きにも拍車がかかったようです。
そしてその経験がいま、まめぱんのパンづくりや品揃えに大いに役立っていますので、まあそういう食いしん坊の食べ歩きも今にして思えば決してムダではなかったのかもしれません(笑)
話を戻しますが、天然酵母でのパンづくり。たまに手伝いで生地をこねたり、たぷたぷしたおもちのようなパン生地がやがて発酵してパンになっていく過程を見ていて、だんだん食べる方から作る方への興味がわいてきたのでした。
酵母の温度管理、発酵時間の調節、生地のこね方。
天然酵母って難しそうだなぁ。だけど、お店で売ってるようなおいしいパンが自分で焼けたら嬉しいな。いつか本格的にやってみたいなぁ…。
単純ではありますが、頭のどこかでこんなことをぼんやりと考えていたことが、後のパン屋さん開業のアイデアにつながったのは間違いありません。
もっとも、喫茶店の手伝い程度で本格的な修行など全く未経験の私には、パン屋開業など大それた目標であったことは言うまでもなく、ここからが試行錯誤の連続、粉まみれの奮闘のはじまりなのでした。