そもそも、「なぜパン屋なのか」ということからお話しします。
昨年までの私は、「田舎に住みながら、Eメールを介して都会とやりとりし、在宅で仕事をする」という、Iターン派にとってはある意味理想的な生活を送っていました。
なにしろそれまで都会からのIターンというと、まずぶつかるのが「働き口をどう探すか」という問題でしたからね。
そもそも田舎には働き口がないからこそ、若者はどんどん都会に出て行くのであって、そこへ逆に都会から入っていこうとしても、まず仕事探しで苦労するのは当然のこと。これがIターン希望者にとっての最初の難関となっていました。
そんな状況でしたので、私たちの「都会の仕事を田舎で続ける」というスタイルは、新しいIターンのモデルケースとして注目され、雑誌や書籍などで紹介されたりもしました。
しかし当の私たちは、こういう生活を続けるその一方で、「何か違う」という微かな違和感をいつもどこかで感じていたのです。
その違和感が何だったのか、ある時ふと気づいたのですが、それは「田舎に居ながら、実は本当の意味での田舎暮らしをしていない」ということでした。
つまり、日常生活の場として確かに田舎に身を置きながらも、仕事としてはその田舎とは何の関係もない都会の仕事で、収入も都会から得ているという、実は田舎よりも都会に大きく依存した生き方である、ということです。
もちろんこれは先に述べたように、新しい時代の新しい生き方の一つとして、こういう形もアリなんだろうな、とは思いますよ。
でも、やっぱり「何か違う」という違和感だけは拭えなかったのです。
『たまたま今ここに住んでこの仕事をやっているけれども、たとえばこれが北海道でも沖縄でも、はたまた海外でも構わないわけで、それじゃ逆に「ここ」で暮らす意味がないのでは?
なんだか、都会から来て田舎に長期滞在している別荘族の人たちと大差ないような…。
9年もここで暮らしているのにいまだに本当の意味での「田舎人」じゃなくて、結局は「よそ者」のスタンスから抜け出せていなかったのでは?』
こんな思いが強くなりました。
やっぱりいつまでも都会に依存するんじゃなくて、もっとこの田舎に深く根ざした形で生きていく方法を考えないと。
たとえば、本格的に農業を始めて農家として自立する道を目指す、とか。
飲食店を開いて、手づくりの農産物を使った料理でおもてなしする、とか。
環境の良さを活かして、都会の子供たちを受け入れるフリースクールを始めてみる、とか。
どんなことでもいいから、とにかくこの村でなければ出来ない、ライフワークとなりうる「何か」を見つけたいと、あれこれ考える日々が続きました。
まず候補に上がったのが農産物の宅配でした。インターネットで受注して、自分たちが作った有機・無農薬の農産物を販売する。
でも、そんなサイトは今ではもう珍しくもないですし、そもそも農産物は長期保存できませんから、収穫時期のわずかな期間しか販売できません。
ネット販売するなら、やはり通年販売できる加工食品でなければダメだな、という結論に落ち着きました。
加工食品、加工食品…とあれこれ考えているうち、ふと「パン屋さんはどうだろう?」とひらめきました。
ここ数年、試験的に始めてみたライ麦の栽培もいまのところ好調。ライ麦なんて、国産ものはほとんど流通していない貴重品だし、これだけでも商売になりそうだけど、せっかくだから他にもいっぱい作ってる豆類とか、あと最近話題のキビなんかの雑穀も作ってることだし、こういうのを全部活かして、独自のパンを作ってネットで販売したらけっこうウケるんじゃないかな?
と、最初はちょっとした思い付きだったのが、どんどんアイデアが膨らんで、しまいには「これならいけそうだ」とばかり、恐れを知らぬ素人の勢いのまま実現に向けて準備を始めることになったのです。